
日常の何気ないモノに目を止め、その声を聞き、時に身を委ね、わきあがる意思を、作品に込めていく。
アーティスト 山本 歩美 (やまもと あゆみ)
- Profile
- 1990年 京都府生まれ。2013年 京都造形芸術大学の情報デザイン学科 卒業。2013年 第9回1_WALL 居山浩二 審査員奨励賞受賞。2014年 第10回1_WALL フィナリスト選出。同年 広告制作会社にてデザイナーを務めながら、作家活動をスタート。2015年 都築潤ディレクション展「不安すぎるライン」参加。
2017年 東京・表参道、有楽町で展開するフラワーショップに勤務。同年 自身初の個展を東京・代官山のgallery子の星「わきあがれ ポップカルチャー」を開催。2018年 東京・神田 ギャラリーTETOKA 黒田潔ディレクション展「REFLECTOR」参加。
この秋から本格的に作家活動をスタートさせた山本歩美さん。彼女は、若手アーティストの登竜門ともいえるコンペティション「1_WALL」にて、審査員奨励賞(第9回)とファイナリスト(第10回)に連続で選出された経歴の持ち主。2015年には都築潤ディレクション展「不安すぎるライン」、2017年には自身初の個展「わきあがれ ポップカルチャー」を東京・代官山のgallery子の星で開催するなど、これまでも精力的に活動してきました。自由な発想から生み出される作品は、お世辞にもわかりやすいものではないかもしれません。それでも、日常にありふれたモノと文字や言葉とをフュージョンさせた作品一つひとつに、彼女の思いが溢れ、パワフルでまっすぐな意思を感じ取ることができます。今回、山本さんの大好きな場所、東京・築地場外市場にて、インスタレーションを行うということで、創作に対する思いをお聞きしてきました。
“美大に通っていた頃は、イラストレーターか会社員になるつもりでした。”
―子どもの頃の夢を教えてください。
幼少期から絵を描くことが大好きで、中学・高校生の時は、イラストレーターになりたいと思っていました。高校卒業後は地元京都にある、京都造形芸術大学の情報デザイン学科・イラストレーションコースに進学。そこでイラストレーターとして第一線で活躍されている都築潤さんから指導を受けました。
―大学ではどんなことを学びましたか?
企業が発行するマガジンの挿絵を、実際に自分が描いたらどうなるか。また、イラストのコンペにグループで応募するなど、実践的な講義が多かったですね。そんな講義を通して、イラストは情報をより端的に伝えるためのツールであり、人や社会とコミュニケーションするものだから、作家の個性を出しつつも「わかりやすさ」を担保しなければいけない。なので、とても思いやりが必要な仕事だと感じました。
―大学卒業後はイラストレーターとして就職したのですか?
もちろんイラストレーターにもなりたかったですし、一方で会社員として就職しなきゃいけないという固定概念みたいなものも、なんとなくは持っていたんです。でも、大学3年、4年になっても就活はまったくしませんでした(笑)。自分でもよくわからないんですけど、セミナーや企業説明会も行かず、1社もエントリーしなかったんですよね。とにかく面倒くさかったんです(笑)。卒業後は、大学2年から働いていた魚屋でバイトをしながら実家で暮らしていました。
―ではしばらくはフリーターをしていたと?
そうですね。実家暮らしだったので自由気ままに生活していました(笑)。でも、なにかしなきゃいけないという思いはずっと持っていて、ある時、大学卒業前に都築先生が、「1_WALLという賞があるよ」と教えていただいたのを思い出したんです。それで意を決して、卒業して1年目の夏に応募しました。
“「1_WALL」の審査員奨励賞とファイナリストに選出。表現者として生きていきたいと覚悟が決まりました。”
―「1_WALL」はどのような賞なのですか?
表現の新たな可能性を追求することをコンセプトにしたコンペティションで、グラフィック部門と写真部門の2つがあります。テーマや手法は自由。ポートフォリオでの1次審査を通過すると、2次審査では審査員全員と1対1での面接を約8分行います。そこから6名のファイナリストが選ばれ、その6人は審査員やお客さんの前で公開プレゼンをするという、面白い審査方法が取り入れられている賞なんです。審査員の方々も錚々たる面々で。ふつうのコンペだと作品を提出して、審査員の方が一瞬見て、判断して、審査されてしまうと思うのですが、「1_WALL」では、2次までいけば、審査員と直接話して、作品の思いを説明できる。それが私には向いていると思いました。
―賞に取り組まれていかがでしたか?
「かるた」をモチーフにした作品を作ったのですが、2次審査まで進むことができて、最終的には審査員奨励賞をいただけたんです。ある審査員の方には「文字の部分が面白い、これをもっと突き詰めてみたら」という品評をいただき、そういった見方もあるのかと、自分自身でも発見がありましたし、自信にもなりましたね。
―初挑戦で「審査員奨励賞」というのはすごいですね。その後はどうされたんですか?
「1_WALL」は年に2回開催されるため、半年後にもう一度チャレンジしました。「えもじポップ」というテーマを設け、田んぼの「田」という漢字の中に、「田園」を感じる絵文字を描いていきました。この作品がファイナリストに選ばれ、準グランプリをいただくことができました。公開審査のプレゼンテーションでは、作品に対する思いが溢れすぎてしまって、5分の持ち時間を大幅にオーバーして話してしまいました(笑)。
それでも審査員の方々には「半年間でよくここまで頑張ったね」「タイポグラフィーとも違う。イラストレーションとして成立している」など嬉しい言葉をかけていただけました。2回目の挑戦となったこの時期は、とにかくテーマを考え、作品と向き合い、描きまくった時期だったので、とてもしんどかったですけど、「表現者として生きていきたい」と、自分の中で方向性が明らかに定まり、ターニングポイントになりましたね。
“デザイナーとして東京で就職するも、多忙な毎日で、作品に向き合う時間が少なくなっていきました。”
― アーティストとしての活動が始まるわけですね?
はい。「1_WALL」の公開審査の際に、ポジティブな意見をいただいた一方で、「もっといろんな表現を探ってみたら?」「自分でもまだ作品の良し悪しの判断がつかないんじゃない?」といったコメントもあって「確かに」と納得したんです。
だから、もっと本気になって作品と向き合うために、東京に行くことにしました。24歳の時ですね。ただ、さすがに作家だけでは生活できないので、渋谷にある広告制作会社にデザイナーとして就職。タイポグラフィーやイラストレーションのスキルが得られると思ったんです。作品にも活かせますし。その会社には、未経験で雇ってもらったので感謝しかないです。
―作家とデザイナー、二足のわらじ生活はいかがでしたか?
広告業界は予想以上に忙しくて、正直きつかったです……。終電を逃してしまうことも多々ありました。デザイナーとして未熟だったので仕方がないとは思っていましたけど、家に帰っても、ご飯を食べてすぐに寝てしまうし、休みの日も疲れて遅くまで寝ていることが多かったです。
そんな中でも、都築先生からグループ展をやるからと声を掛けていただいて、それに参加したり、自らギャラリーをおさえて初めて個展を開催したりと、時間が取れない中でも、できる限り創作と向き合うようにはしていました。ただ、心のどこかで「もっと作る時間を確保したい」という、もどかしい思いがあったのも事実で、迷った末に、2017年に、広告制作会社を約2年半勤めて退職しました。
“フラワーショップでは、花の魅力を引き出すレイアウトや美しい空間デザインを学び、作家としての幅を広げられました。”
―そうなのですね。その後の進路についても、教えていただけますか。
表参道や有楽町に店舗を構えるフラワーショップに就職しました。花屋といってもふつうの花屋とは違い、ボックスの中に生花を敷き詰めた「フラワーボックスアレンジメント」が有名なお店。とにかくモダンで洗練されていて、店舗ディスプレーも2日に1度は入れ替えるという徹底ぶり。当然といえばそれまでなのですが、スタッフみんな本当に花が大好きで、フローリストとしてプライドを持って働いている方々ばかり。刺激を受けましたね。
花は生モノなので、鮮度を損なわずにスピード感を持って、その花が一番綺麗に見える瞬間と見せ方を探る必要があります。ですから、花の魅力をより引き出すレイアウトや美しい空間デザインとはどんなものかを学ぶことができましたし、さらに現場で「花」が「商品」として生まれ変わる様もリアルに感じられました。このような経験は、作家としての表現の幅も広げられたと思います。
“日常の中にある何気ないモノに目を向けて、そのモノの声を聞き、作品として昇華させていきます。”
―東京でデザイナーや花屋を経験して、山本さんの作風に変化はありましたか?
そうですね。根底の部分は変わらないと思います。私の作品って、日用品だったり、ゴミとして廃棄されてしまうものだったり、ふつうに暮らしていたら目にとまらないようなものに、目をむけて、それを作品に昇華させるイメージなんです。だから京都の魚屋でバイトしていた時は、魚を梱包する発泡スチロールやトレイ、花屋の時は、花を入れる変な形のダンボールなど、それらを元に「何が創作できるだろう」と考えていくんです。
―まずは題材というか、ひとつのテーマを決めるんですね?
そうなんです。描きたいものを自由に描くのって意外と疲れるんですよね。だから、謎解きじゃないですけど、制限を設けるんです。まず、日常生活の中で、私のアンテナに引っかかったモノたちを、ストックしたり、覚えておいたりして、作品の一部として巻き込めそうなモノはないかと、ギラギラした気持ちで吟味し、狙いを定めたら、次に、このモノからなにを生めるだろうと、モノの声を聞いて、委ねて、考えて、寝かせて、ある時「あ!」と思いつく瞬間を待つんです。それで、そこからはガッ!と、とにかく勢いで作ります。予期しない方向に作品を着地させられた時は「こうなったか!」と自分でも驚きがあって、本当にワクワクします。私は飽き性なので、そういった偶然性を大切にしたものづくりが合っている気がしますね。
―山本さんの作品は誰に向けて作っていますか?
私の作品は、社会的なメッセージがあるわけでもないので、誰に向けてというのはありません。それでも、一つひとつの作品には、意思を込めて作っています。それが「作品」かどうかの境界線にもなると思うので。ですから、その意思が、見る人に伝わってほしい、そして何かを感じ取ってもらえればいいなとはつねに思っていますね。
“作品に疑問を持たれるほど、伸びしろがあると思うから。創作に専念できる環境で、わたしらしく作っていきたい。”
―最後に今後の目標を教えてください。
2017年に初めて個展を開催した時に、いろんな人に来ていただけました。いただいた感想の中で多かったのが、「わからない」とか「どうゆうこと?」という疑問の声だったんです。でもそれって私の中ではとてもプラスに捉えていて、それだけ作品の解釈に幅を持たせられているし、改善すべき部分もたくさんあるから、伸びしろがあると思っているんです。
今年の8月でフラワーショップを退職し、作家活動に専念することに決めました。花屋ではいろんな経験させてもらいました。とくに店舗ディスプレーを通して、空間デザインに興味を持てたので、それを今後の作品づくりに活かしていけたらなと思っています。今回、築地で取材していただいたのも、私の大好きな築地場外市場という空間の中で、私の作品がどう映えるかを試してみたかったからなんです。ですから、このインタビューが、私の作家人生の新たなスタートの日になりましたよ。
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