クリエイティブ

大切な人の笑顔を思い浮かべながら、日々、思いを込めてデザインしていく。

デザイナー 上原 あさみ (うえはら あさみ)

Profile
1985年生まれ、愛知県出身。武蔵野美術大学を卒業後、約10年間のデザイン会社勤務を経て2018年6月に独立。「茨城県北ビジネスプランコンペティション2017」で「”Shimikon” Branding Project~『凍みこんにゃく』のストーリーを伝える、新しいブランディング~」を提案し、奨励賞を受賞。現在は横浜を拠点に、地域の課題解決に関わるデザインに取り組んでいる。

「地域に携わる仕事がしてみたい」。今、そんな夢を抱く人が増えています。でも、実際に行動に移すとなると別の話……。二の足を踏んでしまう人が多いのではないでしょうか?都内のデザイン会社で約10年間、エディトリアルデザイナーとして勤務していた上原あさみさんも、そのうちの一人でした。レイアウトの仕事にはやりがいを感じるけれど、目に見えるカタチで、社会に役立つ仕事がしたいと日々、葛藤していたそうです。ただ、そんな彼女、結婚と出産を機に、自分と社会とのあり方を、あらためて考えるようになり、地域の仕事をすることを決意。2018年に会社を辞め、独立。上原さんのすごいところは、受け身にならず、仕事を自ら生み出したところ。今回は、そんな上原さんに、会社員時代のことから、地域の仕事の話まで、ざっくばらんにお話していただきました。

 

“葛藤を抱えて過ごした美大時代。デザインの力を信じて、エディトリアルデザイナーに。”

ー大学ではどんなことを学ばれていたのですか?

子どもの頃から絵が好きで、将来は、絵本作家になりたいと思い、武蔵野美術大学に進みました。でも、所属したデザイン情報学科は、日常生活や社会の中の課題を見つけて、それをデザインやプロダクトの力で解決するという、実践的な学習をするところで、当時の私は、それにあまり意味を見出せませんでした……。もっとデッサンや美術の基礎をやりたかったんですよね。


また大学2年生の時、授業で戦争のフィルムを観る機会があり、そこでも打ちのめされてしまいました。というのも、世界では大変なことが起こっている。もし戦争という極限の状態になってしまった時に、本当にデザインや絵が役に立つのだろうか。デザインには問題を解決する力なんてないし、絵は、豊かな人たちのためだけのものではないかと。その頃は、自主制作で絵本をつくっていたのですが、「全然意味がない……」という気持ちになってしまい、絵本作家の夢はしぼんでしまいました。

―モヤモヤを抱えた学生生活だったのですね?

絵本作家の夢は強かったので、落ち込みました。ただ、悶々とした気持ちで学生生活を送っていくなかで、ある時、先輩の卒業制作を思い出したんです。それは絆創膏の作品で、ふつう絆創膏は一色ですが、いろんな人種に合わせた肌色のプロダクトを提案していて、目から鱗だったんです。こういう視点もあるのかと。もしかしたら、デザインは何かを解決する力を持っているのかもしれないと、凹んだ気持ちを再び立ち上げてくれました。

そこで、あらためて何をやりたいか自分なりに考え直し、私は絵本を含めた本全般が好きで、とくに雑誌は、めくるだけでいろんな世界に連れていってくれるし、大学で学んだことも活かせるのではないかと思い、大学卒業後は、雑誌や広報物をデザインする会社に就職。エディトリアルデザイナーとして社会人生活をスタートさせました。

“デザインは、見映えを良くすることじゃない。伝えるべきことの根本を見極めてカタチにしていくことです。”

―社会人になってみていかがでしたか?

定期的に発行される雑誌や広報物は、当たり前ですが、必ず締め切りがあります。ですから、短期集中でスピード感を持って取り組まなければいけません。また同時進行でいくつもの仕事をこなさなければいけないので、大変でした。でも、雑誌に自分のクレジットが載った時は、単純に嬉しかったです。自分の名前が載るっていまだに嬉しいんですけどね(笑)。忙しい職場ではありましたけど、人間関係にも恵まれ、充実感を持って仕事をしていました。

―そもそもエディトリアルデザインとういうのは、どのようなお仕事なのでしょうか?

編集者、ライター、カメラマン、スタイリスト、ヘアメイク、校正、印刷、アートディレクター、そしてエディトリアルデザイナー。1冊の本を作るにあたって、たくさんの職業の方が関わっています。そんななかで、エディトリアルデザイナーは一言であらわすと、誌面をレイアウトする立場の人。いただいた原稿や誌面構成をもとに、編集者の方と打ち合わせをして、このページは誰に向けたものなのか、どのようなイメージで作りたいかなどを確認し、編集者の方のニュアンスを汲み取って、実際にデザインしていきます。

―なるほど。上原さんご自身がレイアウトする上で、工夫されていることはありますか?

受け身にならないようにしています。編集者の方の意図を把握するのは大前提ですが、それを踏まえた上で、「こうしたらもっとよくなりませんか?」「このようなトーンはどうでしょう?」と提案し、話し合い、少しでも読む人に伝わるものを世の中に送り出したいと思っています。またデザインは見た目を良くすること、つまり「飾る」ことが役割だと誤解されるのですが、どうしたら伝えたい意図が、より良く受け手に伝わるのかを考え、そのためにどんなカタチづくりをするのかが、デザインの本質です。それって、まさに大学で習ったことなんです(笑)。社会人になって初めて、あの頃の学びはムダではないと認識させられました。

“「自分が作ったものは誰に届いているんだろう」。そんなモヤモヤを抱えていたのと同時に、地域を良くするお手伝いがしたいと強く思うようになりました。”

―フリーランスのデザイナーになった経緯を教えていただけますか?

私が制作に携わったものが世の中にでること。また、さまざまな職種の人が、それぞれの能力を活かして、ひとつのものをつくる一体感など、日々、エディトリアルデザイナーとしてのやりがいを感じながら会社員として働いていました。一方で、自分が手がけたものが「誰に届いているんだろう」「誰かの役に立っているのだろうか」などといった、モヤモヤも抱えていました。作ったものを手にした人の反応がダイレクトに得られないということが、悩みの原因のひとつだったような気がします。次第に自分が本当にやりたいことはなんなのかと自問自答するようになり、「地域」「地方」というキーワードに興味を抱くようになっていきました。「地域で何かしたい」。そんな漠然とした憧れを抱き始めたものの、では一体「何のために」「誰のために」「どこの地域で?」と突っ込んで聞かれると、明確な答えが出せず、「やっぱり自分にはできないかも」と行動できず仕舞い……。

ただ、26歳の時に結婚し、その後、2人の子どもの出産を機に、生活環境は一変。仕事、家事に加えて、育児をこなしていくなかで、先ほどのモヤモヤとともに、子どもたちが成長した時に、社会に良い影響を与えられているような親でありたい、一人の大人でありたい、と思うようになりました。そんなことを考えていたある時、日本仕事百貨という求人サイトが主催する「働き方を考えるツアー」という催しをネットでたまたま見つけて、迷った末に、参加することに。このツアーは、1泊2日で茨城県の大子町と常陸太田市を訪れ、地域の魅力を発見するというもの。そのツアーに参加してみて、地域の問題は山積みだし、地元の方々はプレイヤーを求めている。デザイナーとして役立てることがあるのではないかと可能性を感じましたし、自分の行動次第で、仕事はつくれると思ったんです。それがキッカケとなり、独立して地域の仕事をやってみようと決意。2018年6月、33歳の時にフリーランスのデザイナーとして活動をスタートさせました。

―上原さんにとって縁もゆかりもない茨城という地ですが、どんなところに魅力がありましたか?

とても良いと思ったのは、そこに住んでいる方々が、自分たちの土地のことを心から好きでいることでした。好きだからこそ「こんなところが良い」「この特産品は美味しい」と自慢も出てきますし、逆に「こんなところがダメだ」とネガティブなこともきちんとおっしゃられていて、愛情を持っている証拠だと感じました。そんな方々の話を聞いているうちに、愛着が湧き、一緒に何かお仕事ができたら楽しいだろうなと考えるようになりました。

“茨城の特産品、「凍みこんにゃく」の虜に。その商品が持つストーリーに感動したんです。”

―実際にどのような行動に移されたんですか?

茨城県の県北という地域は、全国的にはあまり有名ではないかもしれませんが、特産品も多いですし、素敵な場所もたくさんありました。ツアーに参加して初めて知ったことでした。とくに私が目を奪われたのは、「凍みこんにゃく※」という特産品。ツアーの帰りのサービスエリアでたまたま見つけて、白くて、筋がいくつも入っていて「これなんだろう?」と興味を惹かれました。自宅に帰って調べてみると、あの筋は藁のあとで、職人さんが一つずつ手作業で藁の上に並べていることがわかりました。また、凍みこんにゃくを生産している会社も茨城には3社しかなく、とても貴重だということも。見た目に派手さはないけれど、人の手と自然が融合した凍みこんにゃくの存在そのものが輝いている、まさに「普通であることの美」を感じて、この商品で何かしたいという気持ちが湧いてきました。

※生芋から作ったこんにゃくを薄くスライスし稲わらを敷いた田んぼに並べ、その上から水をかけて凍結と解凍を繰り返して水分を抜き、その後乾燥させて作られる伝統食材。

―「凍みこんにゃく」に可能性を感じて、どんなことに着手されたんですか?

独立前ですが、ツアー参加後の2017年12月〜2018年2月にかけて、茨城県が主催するビジネスコンペがありました。そこに「凍みこんにゃく」をテーマにして、エントリーしたんです。コンペは1次、2次、最終選考と段階を踏んで進んでいくのですが、最初は、凍みこんにゃくを使ったスイーツを提案し、1次選考を通過。ただ、2次選考に向けて、具体的にスイーツの試作をしてみるも、どれもしっくりいかずに、完全に行き詰まってしまいました……。

迷った末に、2次選考では、凍みこんにゃく料理を使ったお弁当に変更してプレゼン。しかし、審査員の方々からは「スイーツの方が良かった」「普通すぎる」というご指摘をいただくことに……。図星でした(笑)。ただ、プレゼン自体は評価していただき、なんとか2次選考を通過。そして、最終選考のプレゼンを経て、なんと、奨励賞をいただけたんです。

―すごいですね。最終選考ではどのような提案をされたのですか?

2次選考の際に、「デザイナーという職業を活かしてみてはどうですか?」というフィードバックもいただいていて、「確かに」と納得できたんです。そこから、最終選考に向けて何ができるだろうと思案するも、答えは浮かばず、時間だけが過ぎていく……。このままではらちが明かないと思い、思い切って、凍みこんにゃくの生産会社さんに電話取材を申し込み、お話を伺うことにしました。取材を受けてくださった営業取締役の方は、商品を生産するに至った経緯や、生産工程、これまでの商品開発のことや、これからの展望など、さまざまな想いを語ってくださいました。

その中でも、「凍みこんにゃくを高級食材として認知させていきたい」という言葉に、感銘を受けました。そうだ、私が初めて凍みこんにゃくに出逢って、感動した商品のストーリーと、今回の取材でわかった生産者の想いを汲み取って、デザインの力で、リブランディングしよう。そんなアイデアが降りてきて、一気に道が拓けた感覚でした。最終選考のプレゼンでは、ビジネスプランにはなってないかもしれませんということを前提にした上で、凍みこんにゃくの魅力を伝えることを一番に置き、パッケージデザインを変更するアイデアをご提案させていただきました。

 

“「売上が伸びればいいわけじゃない」。地域独特の価値観に驚き、そして納得しました。”

―ビジネスコンペ後の歩みも教えてください。

いままでやってきた雑誌の仕事なら、「部数を伸ばす」という、わかりやすくてシンプルな共通目標がありました。でも独立後に、茨城の生産会社のもとへ何度も足を運び、対話をしてわかったことなのですが、生産会社は、必ずしも、売り上げが伸びることをポジティブに捉えていなかったんですよね。なぜかというと、売れすぎると人手が足りなくなり、生産が追いつかなくなるし、かといって、従業員を増やすほどのお給料も払えない。そんな現状があったんです。それを知った時は、驚いたと同時に、でも「考えてみればそうだよな」ととても納得しました。

それからは、こちらの価値観を押し付けないように注意しながら、じっくりやっていこうと決めました。先ほども言った通り、凍みこんにゃくの生産会社は茨城県に3社あるのですが、それぞれのご要望をお聞きしながら、パッケージを変更してみたいという会社さんは、私がデザインを担当させていただき、それ以外の会社さんについては、商品の魅力を引き出すための、新たな方策を検討中です。そして2019年度中には、私がパッケージデザインを担当させていただいた商品が店頭に並ぶ予定なんです。

“身近な人が笑顔になること。幸せになること。それこそが、私の最大のやりがいだと気づけました。”

―フリーランスになって上原さんの人生も大きく動きだした印象を受けましたが、独立されていかがですか?

フリーランスは、待っていても仕事は生まれません。それは怖い面です。でも、自分が目的をもって動けば、いろんな方に出会えますし、可能性はグンと広がります。私自身、自らアクションを起こしたことで、会社員時代では想像もつかないほどの、たくさんのご縁に恵まれています。それだけでも独立して良かったなと。あと、会社員の頃に抱えていた「この仕事が誰のためになっているのだろう」というモヤモヤ、これは社会を良くすることに寄与すれば無くなるだろうと考えていました。

でも、地域に足を運んでみて、少しずつわかってきたのですが、漠然と捉えていた「大きな社会」というものは、実は、すぐそばにいる人のことかもしれないと思えてきたんです。地域で出会った大切な人に喜んでもらうことであったり、生産者の方々を笑顔にすることであったり、身近な人の幸せを思い描くことが、社会を良くすることに繋がっていくのではないかと。そして、何より、顔がわかる人をイメージした方が、私自身エネルギーが溢れてくるんです。これは、雑誌のデザインをする時もそうだったのですが、部数が伸びることも、もちろん嬉しいのですが、編集者の方からの「上原さん、デザイン素敵です!」といった何気ないメッセージに、大きな喜びを感じていたんです。

―最後に上原さんの今後の目標もお聞かせください。

今も雑誌や広報物のお仕事はいただいていて、雑誌のデザインは大好きなので、これは続けていきたいですね。あとは、独立するキッカケとなった地域の仕事、これにもより一層力を入れていきたいです。今は凍みこんにゃくがメインですが、それ以外にも、地域に出向くと、いろんなアイデアが溢れてきます。「こんなサービスがあったらいいな」「こんな取り組みはどうだろう」と。ですから今後は、デザインを軸にしつつも、デザインにとらわれることなく、地域の課題解決を地元の方々と一緒にやっていきたい。そして最終的には、地域の人々の幸せや笑顔をつくっていきたいと考えています。

 

 

 

〈取材・文:寺門常幸/撮影:砂田耕希〉

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