本屋「PEOPLE BOOKSTORE」店主

自由で居心地の良い「場」をつくること。 そして、人と本、人と人。そのつながりが生まれる瞬間に、作用したい。

本屋「PEOPLE BOOKSTORE」店主 植田 浩平 (うえだ こうへい)

Profile
1983年 千葉県生まれ。小学生の頃から茨城県・つくば市で育つ。2005年 明治学院大学・社会学部卒業。大学卒業後、つくば市に戻り、CDショップの販売員やフェス運営のアシスタントを勤める。2013年 本屋『PEOPLE BOOKSTORE』をスタート。また本屋を営みながら月に数回、イベントやライブのオーガナイズも行なっている。

PEOPLE BOOKSTORE:茨城県つくば市天久保3-21-3 星谷ビル1-E
営業時間:火〜土 15:00〜21:00/日 13:00〜20:00(月曜定休)

そこは時間を忘れて、本と向き合うことができる場所。茨城県・つくば市にある本屋『PEOPLE BOOKSTORE』は、そんな定義がふさわしい空間です。古本を中心に新刊、写真集、アートブック、雑誌、ZINEとさまざまなジャンルの書籍が密度高く並んでおり、店に入ると店主の植田浩平さんが、奥から優しく出迎えてくれます。きっと、彼の醸し出す自然体な空気感が、店全体にじんわりと充満し、居心地の良さをつくっているのでしょう。実際、植田さんとのおしゃべりを目当てに来店するお客も多いのだとか。そんな植田さんに、本屋を開店するまでの経緯と、働き方へのこだわり、そして、これからのことについて伺いました。

 

“学生時代の鬱屈とした気持ちを支えてくれたのは、音楽と本でした。”

―まずは植田さんの学生時代のことを教えてください。

よくうちのお店に来る若者にも話すのですが、学生時代は本当に何もしてなかったですよ(笑)。つくばから上京して横浜にある大学に進学しましたが、若者特有の自意識は高いくせに何か具体的なアクションを起こすでもなく、かなり鬱屈としていました。

でも大学のゼミだけはきちんと受けていたんです。ゼミの先生は、雑誌『現代思想』にも寄稿するような方でした。答えを一方的に教える義務教育的な学習ではなく、考え方を示唆するような方針だったので、とても新鮮で刺激を受けましたね。また授業の一環で、ミシェル・フーコーやニーチェなど難解な哲学書を大量に読んだおかげで、どんな本でも読みやすくなりました。先生には感謝ですね。

―当時から音楽や本は好きだったのですか?

もともと父親が本好きで、家に書籍があるのが当たり前の環境で育ったので、いろんな本を読んでいました。音楽は兄の影響でハードロックを聴きはじめ、高校2年からフジロックに行くようになり、そこでレゲエやダブ、ブルースやジャズ、ソウルなどジャンルレスに音楽に触れるようになっていきました。漠然とした不安を抱えながら過ごした大学時代でしたけど、音楽と本だけは、僕の心をつねに動かしてくれて、そこには「確かなものがある」と信じられたし、救われましたね。

 

“人と出会い続けるうちに、人や場に音楽を提供するという「役割」が与えられました。”

―大学卒業後はどうされたのですか?

本気で就職活動をしないまま大学卒業を迎えてしまって、結局、つくばに戻りました。でも、とりあえず働かないと格好がつかないので、「WAVE」というCDショップでアルバイトを始めたんです。「WAVE」は当時、県内で唯一、輸入物を多く扱っていたので、ここで働いたら知らない音楽にたくさん出合えると思ったんです。不純であり、純粋な動機です。ただ、単なるレジ打ちや在庫管理をしていればいいとは思ってなかったのは確かですね。

「WAVEの店員」というポジションを良い意味で利用してやろうと。そんな意識で働いていたおかげか、音楽好きな人とどんどんつながれるようになっていって、僕のすすめる音楽を面白がってくれる人も増えて、小さいけれど音楽のイベントを開催するようにもなりました。それは、人や場に音楽を提供するという「役割」みたいなものが、ポンと自分に与えられたような、不思議な感覚でしたね。

― 「WAVE」ではどのくらい勤務されたのですか?

約4年ですね。経営母体が変わったこともあり、徐々にスタッフ個人の裁量や自由度が無くなっていって……。「去り際かな」と思っていた頃、ちょうどイベントを精力的に企画していた時期でもあったので、一度、フェスの運営現場をこの目で見てみたいと思ったんです。よくライブの舞台袖で腕組んで見ている人いるじゃないですか?あのポジションになりたいなと(笑)。

都内にあるフェスの運営事務所の求人を見つけて、応募しました。でも結局、そこには長くは勤めなかったのですが、ある舞台監督に目をかけていただいて、その方にくっついて全国のフェスを飛び回り、運営を手伝いました。ただ実際は、僕ができることってほとんどなくて、たくさん迷惑をかけました。それでも、がむしゃらに動いていくうちに、人の流れを読んだり、オーディエンスの空気を感じ取ったり、会場全体を俯瞰してみるといった、イベントを運営するにあたって大切な力は養われた気がします。

 

“「自分が地元で何かするなら本屋がいいかも」。ふとした思いとひょんなキッカケから、始まったんです。”

― その後に『PEOPLE BOOKSTORE』を開店するのですか?

フェスの舞台監督のアシスタントやイベントの企画・運営の経験を経て、人と人とが集う「場づくり」への関心はどんどん強くなっていました。そんな時、WAVEの店員時代に知り合ったコーヒー屋の店主、大坪さんから声をかけられたんです。「隣のテナントが空いてるから入ったら?」と。

最初は、本屋をやるなんて考えていませんでした。それこそ「気の合う仲間が集う溜まり場になればいいな」くらいに思っていたのですが、家賃や光熱費を払わなきゃいけない。そして何より、他の誰かにこのつくばの地で、自分が考えるコンセプトと同じような本屋を先に出されたくないという思いが湧いてきて『PEPOLE BOOKSTORE』を始めました。2013年のことです。

 

“本を気に入ってもらって、お客さんとの信頼関係が生まれる。その瞬間が何より楽しいです。”

― お店を出されて5年が経ちますが、どんな本屋を目指されていますか?

もちろん本は大好きですし、愛情もあります。でも書籍を扱うというのは手段であって、僕がしたいことはあくまで「場づくり」なんです。「PEOPLE」という場を司り、調節して、お客さんが肩肘張らずに過ごせる空気感をつくっていきたいと思っています。そして、そんな場に来てもらったお客さんがリラックスして好きな本を探し、手に取り、パラパラめくる。目が輝く。その瞬間を見られたときは単純に嬉しいんですよね。さらに、僕が面白いと思った本をきっかけに、お客さんと会話が生まれ、つながり、信頼関係が築かれる。これも最高です。

僕、WAVEで働く前に1カ月間、アメリカ・ボストンに滞在していたんです。そこで個人経営のレコード屋や本屋によく通っていました。あるレコード屋に行ったときに、冴えないおじさんが店番をしていて「やる気あんのかな?」と思いながら店内を覗いてみると、レコードのセレクトのセンスがびっくりするほど良くて……。さらに別の日に行ってみると、レコードがごっそり入れ替わっていて「この人、本当に音楽好きなんだな」ってまっすぐに伝わってきたんです。また、自由で自然体な店の空気感は、日本の過剰な接客サービスをするお店とはかけ離れていて、あの居心地の良さを目指しているところは、ちょっとあるかもしれませんね。

― 他にこだわりはありますか?

大型書店で扱っているようなベストセラーや流行りの自己啓発本などは、うちで扱う必要はないと思っています。それよりも声は小さいかもしれないけれど、しっかりと訴えかけてくる作品に寄り添いたい。うちは、写真集もあって、アート作品もある、音楽もある、店内は雑多なイメージを抱くかもしれません。でもそれがうちの個性ですし、扱う商品をセレクトしているというよりは、作品が自然と集まってきちゃったというイメージなんですよね。本当に。

 

“つくばという街に、自分らしい関わり方で、何らかの影響を与えていきたい。”

― つくばからカルチャーを発信していきたいという思いはありますか?

それはあります。ただ「地方創生」とかそんな仰々しいものではなくて、この街に対して何らかの影響を与えていきたい。隣のコーヒー屋店主の大坪さんとも、僕らが動くことで「これまでになかった風景がつくれるよね」と話したことがあるんです。

店でライブを開くときって、いつも外から丸見えなんですよ。あるライブの時に、店の前を通りがかった学生たちが「なんだろう?」って覗いてきて「そこに座って聞いていきなよ」って言って、コミュニケーションが生まれたんです。学生たちも本当に楽しそうで、約束事では決して生まれない、偶然がもたらした新しい出会いが嬉しかったんです。自分らしい人や街との関わり方だなと思っています。

 

“「若者たちの居場所づくりの手助けをしたい」という、ずっと抱えていた思いがあります。”

― これからの目標もお聞かせください。

イベントを開催することで「PEPOLE」に足を運んでくれるお客さんは増えました。また「PEPOLE」を営むようになってから、イベントをやる必然性や、イベントに対する説得力が出るようになった気もします。相乗効果ですよね。だから今後も、書店経営とイベントのオーガナイズ、その両方を楽しんで続けていきたいです。やっぱり一朝一夕では成し得ない、長く継続することで見えてくる景色があると思うので。

あとは、都会から戻ってきた若者や、地元でもがいている若者の居場所をつくる手助けができたらいいなとはずっと思っているんです。例えば「あそこのお店、人を探していたよ」「こんど〇〇さん紹介するよ」といった具合に。ゆくゆくは僕が「PEOPLE」とは別の新たな「場」をつくれたらいいなとも考えています。何より、僕自身、人と人との偶発的なつながりによって、扉が開き、人生が切り拓かれていきましたからね。

◎ PEOPLE BOOKSTOREのWEBサイトはこちら

 

〈取材・文:寺門常幸(@tera_tsune)/撮影:宇佐美亮(@usamiryo)〉

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