テキスタイルブランド「udu」デザイナー

手間暇かけて、愛情込めて。遊び心を忘れずに、ただひとつの作品を織っていく。

テキスタイルブランド「udu」デザイナー イシカワ アイ (いしかわ あい)

Profile
1983年 福島県出身。牧場を営み青少年教育に力を入れる両親のもとで育つ。高校より東京都・東久留米市にある自由学園に入学。2004年 自由学園を卒業。同年より東京テキスタイル研究所に7年間所属。織りを大滝恵子氏、染色・フェルトを岩井麗華氏に師事。2006年 テキスタイルブランド「udu」をスタート。染織やフェルトなどの作品で、全国、海外での展示、ライブでのデコレーション、CDジャケットなどのアートワーク、グッズ制作、歌い手の衣装制作なども手がける。さらに自由学園・最高学部・染色非常勤講師を務め、ものづくりユニット nononootoshimonoのメンバーでもある。東久留米市のアトリエ「紙と糸」にて子ども連れOKの織物教室を開講している。

テキスタイルブランド「udu(うづ)」を手がけるイシカワアイさんは、遊び心ある、自由な発想を持ち味として、北欧織を中心に服や雑貨、アクセサリーなどを作るアーティスト。「バッタン、ギッコン。バッタン、ギッコン」。そうして織られる作品には、作り手であるイシカワさんの愛情も織り込まれているのでしょう。作品一つひとつにこだわりとあたたかさが感じられ、ずっと使いたい、ずっと持っておきたいと思わせるものばかり。また、そんな彼女、作家活動だけでなく、子ども連れOKの織物教室を開いたり、学校で講師を務めたりするなど、教育にも力を入れています。今回は、織物教室のある東京・東久留米市のアトリエ「紙と糸」にて、作家活動を始めるまでの道のりや、織物のこと、さらには織物教室や講師のことなど、ざっくばらんにお話をしていただきました。織物教室は毎年好評なようで、彼女の底抜けに明るいキャラクターが、みんなを惹きつけているのだろうと感じました。

“織りの世界に入った最初のキッカケは、スウェーデン刺繍作家の五十嵐富美先生との出会いでした。”


―東京都・東久留米市にある一貫校、自由学園を卒業されたとお聞きしていたのですが、幼稚園から自由学園に通われていたのですか?

いえ、私は福島県の相馬で育ちました。当時、父がポニーの牧場の運営を任されていて、実家は自然豊かなところでしたね。うちの牧場は、ただ単に乗馬ができるだけではなく、青少年教育にも精力的に取り組んでいて、さまざまな事情で地元の学校に通えない子どもたちが牧場留学というカタチで、寮生活を送っていました。だから、昔からわが家は、家族だけでご飯を食べるということはあまりなくて、いろんな世代の子どもたちと一緒に食卓を囲んだり、遊んだりと、それが普通だったんです。

自由学園に入学したのは、高校から。牧場で一緒に育った幼なじみが、牧場を離れて、親御さんの都合で鳥取県に引っ越したんです。そこから連絡を時々取り合っていたのですが、その友だちが親御さんのもとを離れて、東京にある自由学園というところに入学したことを聞きました。そして彼女が「自由学園はとても面白いから、来なよ!」と誘ってくれて、それで高校から自由学園に入学しました。

―自由学園に入学されてから、絵やテキスタイルなどに興味を持たれるのでしょうか?

小さい頃から美術は好きだったんです。でも、好きなだけで、成績も良くなかったですし、褒められることもほとんどありませんでした(笑)。自由学園の大学部に進むと、油絵、日本画、陶芸、染織など美術の専門的なことを学べるんです。私は染織を専攻したのですが、染織の五十嵐富美先生という方が、学校の先生なのにとっても可愛くて、おしゃれで、魅力的だったんです。

今、五十嵐先生はスウェーデン刺繍の作家としてとても有名になられています。私は、五十嵐先生ともう一人、今では同僚に当たる大切な恩師が教えてくださる授業が毎回楽しみで、主体性をもって参加していたと思います。そしてある時、五十嵐先生が、私の作品を褒めてくれて、下級生のお手本にしてくれたり、他の生徒の前で説明させてくれたりして、「あ、私、作ってもいいんだ!」と初めて自信が持てて、創作の道に進みたいと本気で考え始めるようになりました。


“バリスタになるか作家になるか迷った時期もありました。”

―自由学園・大学部卒業後の歩みを教えてください。

大学の時に染織に興味が出て、卒業後は、東京テキスタイル研究所という月謝制の教室に通っていました。この教室、今はなくなってしまったんですけどね……。そこで染織やフェルトなどの技術や感性を磨いていきました。ここで師事した先生方もみなさん人間として魅力的でしたね。ユニークで大らかで、どこかチャーミング。そんな素敵な出会いを通して、私も「こんな風になりたい!」と強く思って、創作活動に打ち込んでいきましたが、大学を卒業して2、3年くらいは、作家としてはなかなか芽が出ず、飲食のアルバイトをしながら生計を立てていました……。

ただ、接客の仕事をしていくうちに、カフェを出したいという夢も出てきて、有名なカフェでも働くことにしたのですが、そのお店のバリスタがとても厳しい方で、「バリスタなのか作家なのか、どっちかにしたほうがいい」と諭されてしまい、とても迷ったのですが、ちょうどその頃、テキスタイルの活動は、作家仲間と出会ったり、展示活動をしたりして、作品を作ることが面白くなってきていましたし、せっかく長く続けてきたことでもあったので、最終的にテキスタイル作家の道を選びました。

ー「udu」というブランド名、とても素敵です。いつから名乗っているのですか?

22歳の時です。東京テキスタイル研究所の先生が、「自分の作品をどんどん出したいのであれば、名前をつけた方が気持ちが乗るよ」とおっしゃっていただいて、私、ちょうどその当時、ベビーシッターのアルバイトをしていたんです。バイトし過ぎですよね(笑)。


ある家庭のお子さんを預かっていたら、「パパ、ママ、いつまでもラブラブでいてねって書いて」と子どもに頼まれて、書いて見せると、「うづ、うづ、ってなーに?」って質問されました。「ラブ」がひらがなの「うづ」に見えたんですよね。そういう視点があるのか!と感動しちゃって、響きもかわいいし、私、本名が「愛」と言うので、ラブと掛けられて良いなと思い「udu(うづ)」という名にしたんです。


“「北欧織」は糸を染めるところからこだわって創作しています。”

― イシカワさんはテキスタイル作家として、どのような作品を作っているのですか?

染織をはじめフェルト雑貨やアクセサリーを創作しています。染織に関しては、世界中にその文化は存在していまして、それぞれで織り方はほとんど変わらないのですが、使う素材によって国の個性が出てきます。また日本では「つづれ織」、スウェーデンでは「フレミッシュ織」という言い方もします。私は、東京テキスタイル研究所で師事していた先生がフレミッシュ織をされていたので、自然とフレミッシュ織をしていますが、「北欧織」と銘打っています。その方がキャッチーでわかりやすい気がするので。

―「北欧織」の素材は何を使うのですか?

スウェーデンは寒い時期が長い国なので、素材は主にウールを使います。また長い冬の間、緑が生い茂り動物たちが生き生きと活動をはじめる春という季節を待ち焦がれるかのように、パキッとした色使いやモチーフが好まれる傾向にあり、その鮮やかな色は化学染色を主体として染められています。もちろん、草木染めもないわけではないです。私の場合、糸は市販のものはあまり使いません。日本だと織物や編み物は、割と年配の方の趣味として定着しているからか、大手のお店に行っても渋い色ばかりで、なかなかイメージ通りの色の糸がないんですよね……。それなら自分で染めちゃえと思って(笑)。

“手間暇かけて作ったものには、想いが込もると思っています。”

―イシカワさんが日々、創作活動をされる中で、インスピレーションはどこから得ていますか?

自分のお気に入りのミュージシャンを探すにも、私が10代、20代の頃はわざわざCDショップに出かけて、試聴したり、ジャケ買いしてみたりと、そういう積み重ねで、結構、感性が鍛えられたと思うんです。今はネットで簡単に探せてしまうのですが、そういうのはあまり馴染めないですね。結婚して子どもができてからは、子どもが描いた絵や、何気ない発言からヒントをもらうことが多いかもしれません。子どもって大人と着眼点が全然違うので、この間も、鳥を描いていたんですけど、あーこんな風に見ているのかって、気づきがあって、目からウロコが落ちることがしょっちゅうなんです(笑)。


―作品を作る上で、心がけていることも教えてください。

当たり前ですが「真似しない」ことです。染織をやっている人というのはそんなには多くはないですが、今、少しずつ注目され始めているのと、「北欧」というテーマは何年か前からブームになっているので、「なんか見たことある」とならないように注意しています。そのためには、手軽には作れないような技とセンスを作品に注入しているつもりです。私、料理が息抜きなんです。しかも、じっくり作る料理が好きで、カレーもスパイスから仕込んだりします。

染織も、糸から染めていますし、あと染織には、綜絖(そうこう)といって、1本1本、糸を導くための針金のような部分に、糸を入れていく作業があるのですが、それを300本〜400本入れていかなければいけません。かなり地道なんです(笑)。初めての人や、コツコツやるのが苦手な人は、嫌に思うこともあるかもしれませんが、私、全然、苦じゃなくて。むしろ、手間暇かけて作った方が、完成した時の喜びも大きいし、作品に説得力が出る気がするんですよね。

 

“織物教室では、生徒さん同士のつながりが生まれて、仲良く創作してくれるのが嬉しんです。”


―作品の販売が、メインの活動なのでしょうか?

それだけではないですね。作品の販売はもちろんしていますが、アーティストの衣装やライブステージのデコレーションなども手がけています。あとは、東久留米にあるアトリエで、子ども連れOKの織物教室を開催しているのと、私の卒業した自由学園・大学部で非常勤講師を務めています。よく「作家活動に専念すればいいのに」と言われるのですが、私、作家になる前は幼稚園の先生になりたかったんです。

私の両親が福島で青少年教育をやっていたことがその想いのルーツになっているかもしれません。それと自由学園で受けた教育。立ち止まっている友人に手を差し伸べるといった、協調生を大切にする校風でした。だから、教室を開くことで、地元のママさんや学生の居場所を作りたかったし、自分の手で作りだすことってこんなに楽しいってことを、一人でも多くの人に味わってほしかったんだと思います。

―教室についてもう少し詳しくお聞かせください。

今は、4つのクラス分けで教室をしています。織りだけでなく様々なテキスタイルの手法をじっくり学びたい方は1年間のクラス、単発だけど織り機で織りに挑戦したい方は3ヶ月間のクラス。宿題形式で月1回、織り機を使わないクラスも3ヶ月間です。今は、北海道や京都など遠方からわざわざ通ってくれている方もいます。ありがたいことに、2019年度の教室はすでに定員に達したクラスもあります。

4年前に教室はスタートしたのですが、私自身、小さい子どもが居たので子ども連れOKにしたら、ママさんたちがとても喜んでくれて、そこから教室の存在は口コミで広がっていきました。東京という土地柄かもしれませんが、ママさんたちは頼れる親戚が近くに居なかったり、近所づきあいもあまりしていないケースが多くあるように思います。でも、この教室を開くことで、ママさん同士のつながりが生まれて、自然と仲良くなってくれている。しゃべり場みたいにこの教室を活用してくれているのは嬉しいです。

―アットホームな教室ですね。教室を運営する上で大切にされていることはありますか?

私は織りの技術はもちろん学んでいますが、美大や専門学校を出ているわけではありません。だから良い意味で型にハマってないというか、「織りはこうしないといけない」という固定概念がないんです。自由なんです。教室の生徒さんにも「こうしなきゃダメよ」ということはあまり言いたくありません。


「失敗してもいいから、思った通りにトライしてみましょう」と。そっちの方がのびのびと楽しく自分を表現できると思うんですよね。試行錯誤しながら自分なりに作品を完成させて、生徒さん同士で「みてみて、できたよ!」「すごいね!」などとやりとりしているのを見られた時は、幸せな気持ちになります。


“若い世代には、じっくり考えて、ときに傷つき、失敗して、人間としての幅を出していって欲しい。”

―教室の他にも、イシカワさんは自由学園で非常勤講師をされていますが、若者を指導していて感じることはありますか?

そうですね。今の若い子という言い方はあまり好きではないのですが、明らかに私たち世代とは考え方もスタンスも違いますね。みんなとても賢くてお利口さんなんです。でも、頑張り方がわかなかったり、怒られた経験がなかったりする傾向にあります。私が20代の頃は、ただがむしゃらにやってきて失敗もたくさんしてきたので、そんな子たちを見るのが新鮮でもあります。あとは、とても狭い世界で過ごしているとも感じます。

これだけインターネットが発達して情報が溢れているのに、結局、自分の好きな世界しか見ていないんです。創作してもらう時も、自分の好きなデザインをネットで画像検索してすぐに答えをだしてしまう……。これではセンスが磨かれません。ああでもない、こうでもないと生みの苦しみを体験することが大切ですし、自分とは考えの異なる世界の大人たちに出会って、いろんなことを吸収してほしい。ですから、学生にはインターンで織物教室にも通ってもらったりしているんです。若者だからこそ、感じられることがあると思っているので。

“生徒さんが楽しそうに作っているのが羨ましいから。私ももっと創作活動に力を入れていきたいです。”

―イシカワさんのこれからの夢も教えてください。

まだ私の子どもたちが小さいので、先の話になるかもしれませんが、自分の作品をもっとガツガツ作っていきたいという欲が出てきています(笑)。教室や学校で教えることも楽しいのですが、逆に生徒さんたちが夢中で織物を作っていると、羨ましいんですよね(笑)。さらに、「こんなやり方もあるのか」「私にはない発想だな」と、生徒さんたちから学ぶこともたくさんあります。ですから、純粋に染織と向き合って、新しくてわくわくする作品を、もっとたくさん作っていきたいと思っています。

 

 

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〈取材・文:寺門常幸/撮影:宇佐美亮〉

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