クリエイティブ

こどもの想像力を、もっと広げるために。たくさんのドキドキとワクワクを、絵本に閉じ込めていきたい。

デザイナー&イラストレーター すぎはら けいたろう (すぎはら けいたろう)

Profile
1980年生まれ。愛知県出身。都内のデザイン会社にデザイナーとして勤務の後、イギリス・ロンドンに渡り創作活動を行う。2009年に帰国しフリーランスのデザイナー&イラストレーターとして活動を開始。絵本作りに精力的に取り組んでおり、最近では、2018年12月に絵本『パタンパ!』(永岡書店)を発売。[受賞歴]2009年 ボローニャ国際絵本原画展 入選 2011年 全国カレンダー賞 入選 2018年 キッズデザイン賞 受賞

アトリエ「紙と糸」:〒203-0054 東京都 東久留米市 中央町 1-1-46

ページをめくるたびに、驚きと発見をもたらしてくれるもの。それが絵本。デザイナー&イラストレーターとして活動する、すぎはらけいたろうさんは、広告デザインの仕事だけでなく、絵本づくりにも力を注ぐクリエイター。20代の頃にはロンドンに滞在し、蚤の市に出かけてはガラクタを集め、コラージュ作品をコツコツと作っていたそうで、その体験が、彼の作風の原点になっているようです。耳に心地よい言葉選びと、さまざまな素材を組み合わせてカタチづくられる賑やかな絵は、子どもはもちろん、大人までもワクワクさせてくれます。2009年には絵本の原画の国際的なコンテスト、ボローニャ国際絵本原画展に入選。その後もコンスタントに作品を制作しており、2018年12月には新作『パタンパ!』を出版。子どもの頃にお母さんに読み聞かせをしてもらって夢中になった絵本。その素晴らしさを、大人になったすぎはらさんは、今の子どもたちに、ご自身の絵本を通して届け続けています。今回は、東京・東久留米市のアトリエにお伺いして、海外生活のことやデザイナーとしてのお話、絵本作家としての想いなどをお聞きしてきました。

 

“トロントへのワーキングホリデー、東京での就職。デザイナーとしての歩みが少しずつ始まります。”


―まず大学時代のことや卒業後のお話をお聞かせください。

地元名古屋にある美術の短期大学に進んだのですが、この頃の僕は、バイトばかりしていてデザインや絵に関して、意欲的に取り組んでいませんでしたね(笑)。最低限、課題には取り組んでいましたが、正直、大学での学びはあまりないかもしれません……。親に申し訳ないと思っています。でもこのままじゃダメだということも、頭の片隅でずっと思っていて、卒業後にワーキングホリデーで1年半カナダのトロントに行きました。

海外に行くことで、自分を変えたかったんです。トロントではデザイン会社で働きたかったのですが、英語もままならない、デザインスキルもない、そんな僕を受け入れてくれるところはなくて、最初は寿司屋さんでアルバイトをしていました(笑)。数ヶ月が過ぎた頃でしょうか。友だち伝いに、現地の日本人向けにカッコいい情報誌を作りたいと考えている人たちを紹介してもらって、そのメンバーと一緒に雑誌を制作したんです。お金はほとんどもらってなかったと思いますが、デザイナーとしてのスタートはそこからですね。

―帰国されてからは、どうされたのですか?

東京のデザイン会社にデザイナーとして就職しました。不動産広告を専門に扱う会社で、とにかく忙しかったですね。でもその会社は、ただ単に支給された写真やイラストをキレイにレイアウトするだけでなく、企画からコピーライターやディレクターと一緒に考えたり、広告に必要な写真やイラストがあればカメラマンやイラストレーターにお願いして、素材から撮影したり絵を描いてもらったりといったスタンスだったので、クオリティの高い広告をつねに生み出せていたと思いますし、デザイナーとしてかなり鍛えられました。今でも感謝していますね。

 

“憧れだったデザイン会社に入社するも、失敗ばかりで、大きな挫折を味わうことに。”


―では、そのデザイン会社ではやりがいをもって働かれていたのですね。

そうですね。パンフレットや冊子、ポスター、ノベルティなど、いろいろな販促物の制作に携われて面白かったのですが、ふと「一生、不動産の広告がやりたいか」と自分に問うてみたら、ずっとは違うかなと思うようになって、転職することに。2社目は、音楽やファッションなどのカルチャー系を中心に、グラフィックデザインや企業広告、ロゴ・パッケージデザインなどを手がけるデザイン会社に就職。

ずっと憧れていた会社だったので、そこに入って働けていることに、喜びを感じていましたが、不動産系のデザイン会社とは勝手がまったく違い、要領よく仕事ができずにかなり苦労しましたね。失敗もたくさんしてしまって、ある時、なかば見限られるカタチで退職を促されてしまったんです……。今でこそ、こうして話すことができますが、当時はその事実が本当にキツくて、友人にもそんな格好悪いこと打ち明けられないし、もうデザイナーとして日本で働くことは無理かもしれないなと大げさでなく思ったんです。それで一旦、日本を離れてイギリスのロンドンに行くことにしました。

 

“ロンドンに行って、創作意欲が再燃。蚤の市でガラクタを集めて、コラージュでの作品づくりに励みました。”


―すぎはらさんにとっては大きな挫折だったのですね。でもなぜロンドンだったのですか?

現代美術家の大竹伸朗さんが好きで、彼が若い時にロンドンに滞在して創作活動をしていたことを知っていたので、ずっとロンドンを訪れたいと考えていました。現地では、日系のデザイン会社に入ってデザイナーとして働きましたが、同僚も上司もほぼ18時くらいには仕事を切り上げて帰っていて、残業する人なんてほとんどいなくて、そのカルチャーギャップに驚きました。みんな定時に帰るから、その分、仕事も遅れて納期も過ぎちゃうんですけど、それも仕方ないみたいな感じで(笑)。日本だったら、遅れた分は徹夜してでも取り返さなきゃいけなかったから衝撃でしたよ。

―日本とイギリスのデザイン会社ではそんなに違うのですね(笑)。ちなみに、ロンドンではデザイナーの仕事だけをされていたのですか?

昔から何かを作ったり絵を描いたりすることは好きだったんですが、ロンドンに行ったことで、そのエネルギーがバッと溢れてきて、本気でやってみようと思いました。住んでいたエリアの近くで、毎週日曜日に蚤の市が開催されていて、そこには片方しかない靴や、割れたコップ、切手の詰め合わせなど、いろんなガラクタが売っていたんです。それらの素材をコツコツ集めてコラージュでオリジナルの作品を作っていきました。


ただ、現代美術家として成功している作家の絵が何千万円や何億円もするのに、絵本作家やイラストレーターの絵の値段はそれに比べて0がいくつも足りない……。この差って何なのだろうとずっとモヤモヤした気持ちも抱えていました。で、ある時、現代美術家の村上隆さんの本を読んで「現代美術は富裕層に向けたゲーム」というようなことが書いてあって、僕が作品を通して想いを伝えたい人はそこではないかもしれない。もっと大衆というか、身近にいる友だちや子どもたち、自分の両親など、そんな人たちが楽しんでくれる作品作りに励んでいきたいと考えるようになったんです。それからは子どもの頃から好きだった
「絵本」の制作に熱中していくようになりました。子どもが描く絵って、大胆な色使いや自由な線でのびのびと感情を表現していることが多いですよね。僕もそんな気持ちで絵と向き合おうと思ったら「絵本」作りが一番しっくりきたんです。

“ボローニャ国際絵本原画展に入選したことで、クリエイターとしての自信を取り戻していきました。”


―絵本は誰かに見せたり、販売していたのですか?

絵本には公募のコンテストがいくつもあるのですが、日本のコンテストは箸にも棒にも引っかからなかったですね(笑)。でもイギリスから帰国する2009年に、絵本の原画の国際的なコンテスト、イタリアのボローニャ国際絵本原画展で入選することができました。ロンドンにいた時からこのコンペへの入選をひとつの目標としていたので、入選の連絡がきた時は、いままでの活動が報われた気がして嬉しかったですね。

―どのようなテイストで作られたのですか?

ロンドンの蚤の市でガラクタを集めて、作品を作りはじめたことが僕の創作の原点になっているんです。場合によっては、コラージュをする素材そのものから作ることもあります。ですから、ボローニャ国際絵本原画展にもコラージュでの作品で応募しました。あと、これは賞に限った話ではないのですが、つねに読んでくれる人を具体的に想像するようにしています。自分の子どもや親戚の子どもたちが、どうしたら喜んでくれるだろうかと想いを馳せながら創作するんです。具体的な誰かに届けようとすることで、物語が生まれやすくなりますし、作り手である僕の想いも伝わりやすくなると思うんですよね。


“デザイナーとして、障害を抱えた方の五感を刺激するような空間づくりを目指しました。”


―帰国されてからは、フリーランスとして活動を始めるのですか?

そうですね。デザイナーとイラストレーターの二足のわらじで頑張っています。デザイナーとして完全に自信を無くして、逃げるようにロンドンに行って、でも創作することで徐々に自分を信じられるようになっていって、もう一回、日本でやってみようと思ったんです。もの作りをする仲間やご縁に恵まれて、フリーランスになってからは、いろいろなお仕事をコンスタントにいただけています。

―デザイナーとしての最近のお仕事の話を聞かせていただけますか?

川崎市に「ソレイユ川崎」という障害者施設と保育施設の複合施設があるのですが、そこの施設の内装改修にともない、空間デザインの監修をさせていただきました。最初にお話をいただいた時は、病院のような少し暗い雰囲気だから壁に絵を描いてほしいというオーダーだったんです。それで、現地に出向いてみて施設内を見学させていただいたり、職員の方にヒアリングしたりしてみると、単純に絵を描くだけでは問題は解決しないなと感じたんです。

もっと障害者の方や子どもたちが、この施設にいるだけで五感が刺激されて、心がやわらかくなるようにしたい。そのためには、例えば、触りたくなるような質感や凸凹が壁にあったり、木のぬくもりや香りが感じられたりと、空間全体に仕掛けが必要だと考えたんです。おかげさまで、2018年のキッズデザイン賞を受賞することができたのですが、それ以上に、この施設で楽しそうに過ごしている方が増えたという事実の方が、喜びとしては大きかったですね。


“「もしかしたら、ほんとにいるかもしれない
」。子どもの想像力をふくらませる絵本を生み出していきたいんです。”

―デザインのお仕事にも、絵本のコラージュのように創意工夫があって、とてもすぎはらさんらしいですね。絵本作りについても、詳しく教えていただけますでしょうか?

2018年12月に永岡書店さんから『パタンパ!』という絵本を出版することができました。「パタン」とひっくり返すと「パ!」っと生き物や乗り物などがあらわれる、切り抜きの絵を動かして楽しむ、仕掛け満載の絵本です。トロントにワーキングホリデーしていた時に出逢ったクリエイターの友人と一緒に作りました。着手したのが3、4年前で、完成したのが昨年の2018年でした。僕には3歳になる息子がいるのですが、どこで喜ぶのか、どこで反応してくれるのかは、彼を実験台にしながら試行錯誤していきましたよ。この絵本を通して、自分の周りにはたくさんの驚きや発見があることを、子どもたちには感じてほしいと考えています。

あと、絵本作りで大切にしていることがあります。僕が幼少の頃は、保育士だった母親によく絵本の読み聞かせをしてもらっていました。いろんな絵本の中でとくに好きだったのが『からすのパンやさん』という作品。カラスが森でパン屋さんを営んでいて、物語の最後に「あなたの住む町の近くの森から煙が出ていたら、それは、からすのパン屋さんかもしれませんよ」という投げかけで終わるんです。僕の家の近くにも森があったので、幼かった僕は、近所の森にもカラスのパン屋さんがあるかもしれないと、いつもワクワクしていました。実際にはいないかもしれない。でも、いるかもしれない。子どもがふだんの生活の中で、そんな風に思いを巡らせられること自体が、絵本の豊かなところだと思っていて、『からすのパンやさん』のように、子どもの想像力をふくらませてあげられるような、余白のある作品を作っていきたいですね。

“もう一度海外で生活して、現地で見たもの、感じたものを、作品に落とし込みたい。”


―すぎはらさんのこれからのことについてもお聞かせください。

もっともっと絵本を作っていきたいです。そしてもう一度、海外で生活したいですね。当たり前ですけど、東京とは文化も町並みも、スーパーで売っている食材すらも違います。人の価値観だって日本では常識だと思っていたことが通用しないこともざらにありますしね。ちょっとしたことにドキドキできるので、毎日が刺激的ですし、ものを作る人間にとって、そういうことはとても大切な気がします。絵本であれば日本に居なくても作れますから、いろんな地で見たこと、気づいたことを、作品としてカタチにして、子どもたちにワクワクを届けていきたいと思っています。

 

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〈取材・文:寺門常幸/撮影:宇佐美亮〉

 

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