医療・保健・教育

60年後も70年後も健康な歯を持った大人でいてほしいから。子どもたちには、歯の大切さを心から理解してほしい。

歯科衛生士 中村 純子 (なかむら じゅんこ)

Profile
1965年 神奈川県生まれ。1989年 玉川大学 文学部 教育学科卒業。大学卒業後に内科のクリニックと総合病院に医療事務として勤務。歯科衛生士の資格を取るために2003年 鶴見大学 短期大学部 歯科衛生科入学。2006年卒業。卒業後、開業医に勤務しながら歯科保健指導を始める。現在は開業医を退職し、フリーランスの歯科衛生士として小中学校などで歯科保健指導を行なっている。

「歯科医院に勤務している」「歯医者さんのサポートをする人」。歯科衛生士という職業に、そんなイメージを抱いている方も多いかもしれません。しかし、幼稚園や保育園、小学校などに出向き「保険指導」を専門に活動する歯科衛生士がいます。中村純子さんもそのひとりで、神奈川県内の小中学校で子どもたちを相手にお仕事をされています。また、人々の健康志向の高まりとともに、歯や口腔の健康づくりを通して、食べるチカラ、ひいては生きるチカラを支援する歯科衛生士という仕事には、今、大きな期待が寄せられています。日々、子どもたちとふれあい、歯の大切さを指導されている中村さんに、お仕事のことや子どもたちの歯の健康についてお話をお聞きしました。

 

“医療事務から歯科衛生士に。患者さんに寄り添った医療行為がしたいという思いが募っていきました。”


―歯科衛生士になるまでの経緯を教えてください。

4年制大学を卒業後、内科のクリニックと総合病院に勤務していました。総合病院では、ナースステーションで医療事務の仕事をしていたんです。病院では、医師や看護師、薬剤師や管理栄養士など、医療系の国家資格を持っている方ばかりで、それぞれがスペシャリストであり、お互いの仕事を尊重している雰囲気に刺激を受けました。医療事務にもやりがいは感じていたのですが、国家資格を持ち、もっと患者さんに寄り添った「医療行為」がしたいという思いが強くなり、いろいろ考えた末に、鶴見大学に入学し、歯科衛生士の資格を取りました。


―資格を取得後はどうされるのですか?

歯科クリニックに勤務しました。いわゆる街の歯医者さんです。そこで歯科衛生士として働いていたある時、歯科医師から「今度、学校で歯磨きの指導をするんだけど一緒にやってみる?」と声を掛けてもらって、初めて学校に出向いて指導することになりました。大学時代に教職の免許も取っていたので、子どもたちを相手にする仕事にはとても惹かれました。それで、他の歯科衛生士が学校で保健指導する現場を見学させてもらうなどしてスキルを高めていき、今では学校での「保健指導」を専門にしています。

 

“「歯科予防処置」「診療補助」「保健指導」。歯科衛生士には主に3つの仕事があります。”


―そもそも歯科衛生士とはどのようなお仕事なのでしょうか?

歯科衛生士の仕事内容は大きくわけて3つあります。「歯科予防処置」「診療補助」「保健指導」です。歯科予防処置は、むし歯や歯周病を防ぐ目的で歯垢や歯石など口腔内の付着物を除去したり虫歯予防のためにフッ素を塗ったりします。診療補助は、診療中に器具をわたすなど歯科医師の医療行為をサポートします。保健指導は、保育園や幼稚園、小学校に出向き、歯みがきの方法や食べ方、噛み方などを指導します。歯科衛生士のうち約90%が歯科医院、5%が病院に勤務しており、私のように保健指導を専門にしている歯科衛生士は珍しいですね。子どもたちからも「どこの歯医者さんでお仕事しているの?」とよく聞かれますよ(笑)。

―保健指導についてもう少し具体的に教えてください。

私が学校で行なっている保健指導には2種類あります。ひとつは「ブラッシング指導」。もうひとつは「歯と口の健康チェック」です。ブラッシング指導は、授業1コマ45分のなかで、クラスのみんなに歯の健康や歯の大切さについてお話をして、その後に子どもたちの歯肉を実際に赤く染めだして、どうしたらキレイに磨けるかを具体的に指導しながら、歯みがきをしてもらいます。歯と口の健康チェックは、いわゆる歯科検診に近いもので、保健室に子どもたちを呼んで、一人ひとりの口の中を診ていき、きちんと磨けているかどうかをチェックします。上手に磨けていない子どもには、どうやって磨くのがいいのかをアドバイスします。これは1クラス15分程度ですね。

“むし歯のある子どもとそうでない子ども。その格差は広がっています。”


―今の子どもたちの歯を診ていて感じることはありますか?

昔に比べると今は、むし歯が徐々に減ってきていると言われています。統計上でもむし歯の数は減っているんです。でも実際に子どもたちの口の中を診ると、むし歯が1本もないキレイな歯の子どもたちは確かに多いのですが、一方でむし歯のある子は3、4本あったり、なかには10本以上あったりと、子どもによって大きく差が出てきていると感じます。

―歯にも格差が生まれてきているのですね。むし歯のある子どもにはどのように指導されるのですか?

もし、むし歯があったり、歯みがきができていない子がいたりしても、それを否定するようなことはしません。歯みがきの大切さをきちんと教えて、理解してもらえれば、どんな子でも歯をみがいてくれるようになると信じています。子どもたちを否定して、自尊心は傷つけたくないんです。

“歯みがきの大切さに気づいてほしいから。子どもたちが納得できる指導を心がけています。”


―他にも気をつけていることはありますか?

私、「歯をみがきなさい」とは言わないんです。言葉で伝えるというよりも「歯をみがこう」という意識を子どもたちに持ってもらえるような働きかけをするように工夫しています。例えば「歯みがきをしないとどうなるかな?」と聞くと、「むし歯になる!」と言うんです。そこまではわかっているけど、なぜむし歯になるのかがわかってないことが多いので「歯みがきをしないと食べかすが歯にはりついたままになって歯垢ができます。歯垢は知っているかな?歯垢はむし歯菌や歯周病菌などの細菌のかたまりなんです」と伝えます。さらに「歯垢はどうしたら取れるだろう?」と投げかけると「歯みがきをする!」と言ってくれるんです。

歯についた歯垢を取るために歯みがきが必要なんだと、子どもたちが心から納得してくれれば、面倒くさがらずに歯みがきをしてもらえるようになるのではないかと考えています。実際、ある学校でブラッシング指導をして、その感想をプリントに書いてもらった時に、「今までお父さんやお母さんから言われていたから歯みがきをしていたけど、今日の授業でどうしてやらなければいけないのかがわかりました」と書いてくれた子がいて、この子はこれから歯みがきを習慣化してくれるだろうなと嬉しい気持ちになりました。

ーやはり歯というのは人間にとって大切なのですね?

そうですね。当たり前ですが、歯が健康でなければ食事が美味しく食べられません。入れ歯では味が十分にわからなったり、固いものが噛めなくなったりします。またよく噛むことで脳の働きが活性化され、認知症の予防にもなると言われていますし、噛むことで出る唾液は、歯肉を健康に保ってくれる物質が含まれています。また、むし歯があると問題である職業もあるので、それは子どもたちにも伝えるようにしていますよ。例えば、パイロットや潜水士は、気圧の変化によって痛みが出てしまう可能性があるので、むし歯はNGです。さらに、歯並びによって発音の良し悪しが関係してくるため、アナウンサーなどはキレイな歯が必要です。子どもたちには、歯によって、希望ある未来に制限をもうけてほしくないので、「歯くらい」と思わずに、歯を大切にしてほしいですね。

“指導する立場だからこそ、つねに勉強して、確かな情報を教えるようにしています。”

―プロとして心がけていることはありますか?

子どもたちとは基本的には、一期一会の出会いなので、準備は万全にするようにしています。例えば、テレビなどで歯について取り上げられた場合などは、子どもたちにそのことについて聞かれる可能性があるので、つねに勉強は欠かせません。ただ子どもたちを指導している立場上、いい加減な情報は教えられないと思っていますので、根拠のないネット情報には頼らずに、厚生労働省などが発表している確かな情報をインプットするようにしていますね。

 

“子どもたちには、健康な歯を持った大人に成長してほしいですね。”


―最後に今後の目標を教えていただけますか?

最初にお伝えした通り、むし歯は統計上では減ってきているので、保健指導の重要性が昔ほど言われなくなっています。ですが、私が現場で診ている限りだと、やっぱり歯の健康な子とそうでない子の格差がすごいんですよね。むし歯のある子は、家庭の経済的な事情などでなかなか歯医者に行けない場合が多いため、そういう子たちを救うためにも、歯科指導はこれからもあるべきだと思いますし、すべての子どもたちに、歯の大切さを知ってもらい、50年後も60年後も、健康な歯を持った大人でいてほしいと考えています。そのために、微力ではありますが、これからも学校をまわり、コツコツと保健指導を続けていきたいですね。

 

 

 

 

〈取材・文:寺門常幸/撮影:宇佐美亮〉

 

 

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